2009 年 12 月 のアーカイブ

こちら編集部〈6〉 どこか陽気なポン酢の「ポン」

2009 年 12 月 12 日 土曜日
編集長: 鍋物の季節やなあ。てっちり(フグ鍋)もええし、カニちりもうまい。この夏、取材に行った南紀のクエ鍋もそそるなあ。
見習い: うわ、きたな。よだれ垂らしてる。
編集長: (パッコーン)すき焼きでスタミナつけるのもええし、さっぱりと湯豆腐というのも捨てがたいなあ。
女記者: ……張り扇がきかなくなってる。単細胞だからすぐに耐性ができるのかしら。
見習い: すき焼きは煮てるのに、どうして「焼き」なんて言うんでしょうね。
編集長: すき焼きは元々古なった農具の鋤に、鳥肉や野菜をのせて焼いたところからその名があるんや。痛、たた。
女記者: 今頃反応してる。年を取ると神経伝達も鈍くなるのね。
編集長: 鍋物に集中して無我の境地に入っとっただけや。それはそうとすき焼きやが、鳥肉などを薄くそぎ切りしたものを「すき身」と言い、すき身を焼くからすき焼きになったという説もある。どっちにしても元々焼いてたものやし、文明開化と共に広まった牛鍋とは成り立ちも違うものやから、果たしてすき焼きは鍋物かという論争は鍋物界では未だに続いているらしい。
見習い: それはどっちでもいいけど、一度、松阪牛の本場ですき焼きを食べてみたいです。
編集長: わしはあるけど、もうええわ。その名店は仲居さんが世話してくれるんやけど、まず肉だけ食べて、次は野菜に豆腐、それでまた次に肉だけという食べ方なんや。わしは肉も野菜もごっちゃにして食べたい。そうでないと白菜に肉を隠して人の肉を盗る楽しみが……(ゴッキーン)クーッ。
女記者: さすがに角は即きくようね。ほんとにどこまでも卑しいんだから。
編集長: それはそうと鍋物に欠かせないものにポン酢があるわな。あの「ポン」て何のことか知ってるか。
見習い: ポンカンの「ポン」ですか。
編集長: あんぽんかん。ほら見てみ。ベタなボケ方するから駄洒落がすべったやないか。
女記者: 自分のセンスのなさを人のせいにしてどうするんですか。あのね、ポン酢の「ポン」はオランダ語の「ポンス」からきているの。このポンスというのは、柑橘系の絞り汁にお酒や砂糖を加えた飲み物のこと。江戸時代に日本にやって来たオランダ人は、このポンスを温めて飲んでいたそうなの。当然、日本人も試したようで、最初は長崎の卓袱料理の食前酒として飲まれていたそうだけど、口に合わなかったらしく定着しませんでした。(パッコーン)そこ、寝るな。
編集長: あ、いや、あんまりウンチクが長いと読者も退屈するんと違うかと思てな。
女記者: それで身をもって警告してくれたわけ。
編集長: な、何やねん、その目は。張り扇振り回すのは1話3回までと違うんか。
女記者: そんな約束してません。
見習い: それでポンスはどうなったんですか。
女記者: それ以降は曖昧なんだけど、元々日本にも柑橘類の果汁を調味料などとして使う伝統があったから、やがてそれをポンスと呼ぶようになり、酸っぱいところから酢の字が当てられ「ポン酢」となったというのが一般的な説ですね。
見習い: へえ、オランダ語だったんですか。
編集長: 話がややこしなるけど、そのポンスにも語源があるんや。インドのサンスクリット語の「パンチャ」がそれや。「5つ」という意味なんやけど、スピリッツ、砂糖、レモン汁、スパイス、水の5種類でできたパンチャという飲み物があって、それがインドからヨーロッパに伝わった。そのパンチャがオランダ語読みでは「ポンス」になり、イギリスでは「パンチ」になったわけや。見習い君も知ってると思うけど、ワインやブランデーに果物や砂糖なんかを入れた飲み物を「パンチ」と言うやろ。あれの元がパンチャというわけや。ちなみに喫茶店のメニューにある「フルーツポンチ」は、パンチからアルコール分を除いたものやな。
女記者: どうですか。長口舌を最後まできちんと聞いてもらえれば気分のいいもんでしょう。
編集長: 中身の濃い話やから、思わず引き込まれたんやろ。素直にそう言えば可愛い……(ボカ、スカ)す、素手はあかん。それにしてもええパンチやねえ(バタン)。